登記上の地目および現況がともに農地(田・畑)である土地について、売買や贈与などによる所有権移転を行う場合、農地法3条または5条の許可が必要であることは、皆さまご承知のとおりです。
しかし実務では、登記上の地目と現況が一致していないケース が少なからず見受けられます。
このような場合、どのように判断すべきなのでしょうか。
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登記上の地目:田 / 現況:宅地
このケースの多くは、過去に農地法の許可を受けて転用・建築がなされたものの、地目変更登記が行われていない というものです。
この場合、売買や贈与による所有権移転登記を行う前提として、まず地目変更登記を行い、その後に所有権移転登記を申請することになります。
一方で、農地法の許可を受けずに転用されている、いわゆる無許可転用の場合には注意が必要です。
無許可転用については、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(法人の場合は1億円以下) が科される可能性があります。
許可を受けていない場合、地目変更登記の申請に農地法の許可書を添付することができません。
このような場合でも、登記申請後に法務局から農業委員会へ照会が行われ、農業委員会から「支障なし」との回答が得られれば、地目変更登記が認められることがあります。
もっとも、無断転用により原状回復命令等の対象となる場合には、地目変更登記自体が認められないこともあります。
判断に迷う場合は、行政書士や農業委員会に事前相談されることをおすすめします。
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登記上の地目:雑種地 / 現況:田
このケースは、実務上非常に判断が難しいものです。
農地法は現況主義を採用しているため、登記上の地目が雑種地であっても、現況が農地であれば原則として農地法の許可が必要となります。
もっとも、登記官は形式的審査権しか有していないため、他に問題となる資料がなければ、そのまま所有権移転登記がなされてしまう可能性もあります。
しかし、登記申請時に添付する固定資産税評価額を証する書面には、「登記地目」と「現況地目」が併記されているため、そこで疑義が生じ、法務局から農業委員会へ照会が行われるケースも少なくありません。
では、最終的にどこで判断されるのでしょうか。
結論としては、「農地台帳に記載されているかどうか」 が重要な判断基準となります。
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実際の取扱事例
当事務所で実際に取り扱った事例をご紹介します。
Aさん所有の一団の農地(約30筆)をBさんへ売却する手続きのご依頼を受けましたが、その中に登記地目が雑種地となっている土地が2筆含まれていました。
他の土地については農地法3条の許可が必要であったため、農業委員会へ相談したところ、
登記上は雑種地である当該2筆についても、農地台帳上は「田」として記載されていることが判明しました。
このケースでは、以下の手順で手続きを進めました。
- 雑種地から田への地目変更登記
- 農地法3条許可申請
- 所有権移転登記申請
結果として、すべての土地について無事に所有権移転登記を完了することができました。
非常にレアなケースではありますが、農地法における「現況主義」を改めて実感する事例となりました。
専門家目線で押さえておきたい
農地(転用・所有権移転)における注意点まとめ
農地に関する手続きは、
「登記は通ったが、後から問題になる」
「許可は取ったが、登記で止まる」
といった事故が起きやすい分野です。
以下は、実務で特に注意すべきポイントです。
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① 登記地目だけで判断しない(必ず現況確認)
最も多いミスは、登記簿上の地目だけで農地該当性を判断してしまうことです。
- 登記地目:雑種地・宅地
- 現況:田・畑
- 農地台帳:農地として登録
この場合、農地法上は「農地」と扱われ、許可が必要になります。
必須チェック
- 現地確認(耕作の有無・水路・畦畔)
- 農地台帳の記載内容
- 固定資産税課税地目と現況地目
👉 「登記が雑種地=農地法不要」と即断しないこと
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② 農地台帳の確認は“最優先”
農地法の実務判断において、
農地台帳はほぼ最終判断資料 と言って差し支えありません。
- 登記官 → 形式審査
- 農業委員会 → 実質判断(農地台帳ベース)
農地台帳に記載がある場合、
- 登記地目が雑種地・宅地でも
- 過去に造成されていても
農地として扱われる可能性があります。
👉 登記申請前に、必ず農業委員会で確認
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③ 無許可転用が疑われる場合は「即登記」しない
登記上「田」だが現況が宅地の場合、
安易に地目変更・所有権移転へ進むのは危険です。
チェックポイント
- 農地法の許可年月日
- 許可書の有無
- 建築時期と許可との整合性
無許可転用の場合、
- 地目変更ができない
- 原状回復指導の対象になる
- 所有権移転自体が止まる
👉 先に行政側(農業委員会・行政書士)と整理する
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④手続きの「順序」を間違えない
農地絡みの案件は、
順序を誤ると全てやり直し になります。
典型例(現況農地の場合)
- 地目変更登記(必要な場合)
- 農地法許可(3条・4条・5条)
- 所有権移転登記
特に、
- 先に売買契約を締結
- 先に登記申請
としてしまうと、
「許可が下りない=契約不履行」という事態にもなりかねません。
👉 契約書作成前から関与できるかが重要
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⑤ 「登記が通る=適法」ではない
実務でありがちな誤解がこれです。
- 登記官は形式審査のみ
- 農地法違反の有無までは判断しない
つまり、
- 登記が完了しても
- 後日、農業委員会から是正指導
というケースは十分にあり得ます。
👉 登記の可否と農地法の適法性は別物
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⑥ 司法書士・行政書士の役割分担を意識する
農地案件は単独処理がリスクになる分野です。
- 行政書士
→ 農地法許可、農業委員会対応、事前協議 - 司法書士
→ 登記実務、地目判断、手続全体の整理
特に、
- 現況と登記がズレている案件
- 数筆以上の一団の土地
- 相続・売買が絡む案件
では、連携が事故防止の最大要因になります。
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⑦ 「迷ったら止める」が正解
農地案件で最も避けたいのは、
**「よく分からないまま進めてしまうこと」**です。
- 農業委員会に照会
- 行政書士に相談
- 手続スケジュールを再構築
これらを行っても、
クライアントにとっては 結果的に最短・最安全 です。
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まとめ
農地手続きは、
- 登記
- 現況
- 農地台帳
- 農地法許可
この4点が必ず一致しているかを確認することが、
司法書士・行政書士双方にとって最大のリスク回避策です。
「現況主義」を軽視せず、
書類より現場・台帳を優先する姿勢が、
農地案件では特に求められます。
農地手続きでお困りの方へ
農地に関する手続きは、登記・農地法・現況判断が複雑に絡み合います。
少しでも不安や疑問がある場合は、ぜひトラストまでお気軽にご相談ください。
司法書士法人トラスト https://shtrust-niigata.com/
トラスト土地家屋調査士事務所 https://trust-farmland.com/



